
前回に引き続き、テーマは「睡眠」。今回は質のよい睡眠をとるためにはどうしたらよいか、食事との関連も含めた具体的な方法について、食いしん坊倶楽部メンバーで医師の三浦雅臣さんに伺いました。
前回は、睡眠が人間にとっていかに大切かをお話ししました。このことを理解して、よりよい睡眠ができると、私たちはもっと元気に、いきいきと生活できるようになります。今回は質のよい睡眠を得るためにどうしたらよいのかを深掘りできればと思います。
前述の通り、適切な睡眠時間は7〜8時間といわれています。時間さえとれればよいわけでもないのですが、睡眠不足が習慣化している人は、これを目安に疲れを取って、すっきりと目覚められる睡眠ができるように、少しずつ軌道修正していくことが必要です。
まずは眠るときの環境づくりです。眠るときに室内が明るいと、睡眠の質は下がります。寝室の照明はできるだけ暗くしておくとよいでしょう。就寝の2時間ほど前から睡眠を促すホルモンであるメラトニンが分泌されます。その後で強い照明やスマートフォンの強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑えられてしまうことが明らかになっています。
昼間のうちになるべく日光を浴びるのも大事。夜間の照明による体内時計への悪影響を抑えられます。
寝る直前までスマホを見ているという人も少なくないと思いますが、就寝前に玄関のシューズボックスの奥など、寝室からもっとも遠い場所にスマホをしまい、物理的にも心理的にも遮断したらよく眠れるようになったという話も聞きます。画面のスクロールによって、活動意欲を上げるドーパミンが放出されることや、スマホアプリの通知の赤いサインが脳への刺激になってしまうことも睡眠への質に影響を与えます。一晩だけのスマホの影響は小さいかもしれませんが、毎晩のように蓄積されていけば大きく関わってきますので、気をつけたいところです。
室温も睡眠の大事な要素です。暑すぎたり、寒すぎたりしないようにしてください。特に夏の夜間の暑さはエアコンを上手に使い、快適な温度を維持しましょう。冬は寝具などでも調節が可能です。
入浴はできるだけ就寝の2〜3時間前に済ませるのが理想。お風呂から上がってゆっくりと深部体温が下がってきたところで自然な眠気がやってくるはずです。ただし、極端に熱い風呂はNG。交感神経が活発になり、かえって眠れないということにもつながります。タイミングと湯温を考えて、体をリラックスさせる入浴を心がけましょう。
食事も寝る3〜4時間前に済ませておくのが理想です。食事をすると代謝の過程で体温が上がりますが、それが落ち着いて下がったときに眠くなります。食べてすぐ、胃の中に食べ物が残っている状態で眠ると、朝食が食べられなくなって体内時計のリズムを狂わせる原因にもつながります。残業などで食事が遅くなりそうな場合は、早い時間におにぎりなどの主食を食べて、帰宅後は軽くおかずを食べるくらいにした方がよいかもしれません。
アルコールはどうでしょう。寝酒を飲んでから眠るのが習慣になっている人もいるかと思いますが、実は寝酒は体のためにはよくありません。寝つきはよくなっても、睡眠の質は下がります。ついついお酒が進んでおつまみを食べ過ぎたり、夜更かしをして睡眠時間を減らすことにも。以前【お酒は本当に体に悪い?楽しく飲み続けるためにはどうすべきか】の回でもお話ししましたが、唾液中に残る高濃度のアルコールが、食道がんなどの原因になる場合もあり得ます。実は海外では、寝酒はがんの可能性を高めるとして絶対にNGとされたりしています。睡眠のためには寝酒は控えた方がよさそうです。
睡眠不足から来る眠気をガマンできず、昼寝をする人もいるかもしれません。時間が許せば、眠気の解消にとって昼寝はよいとは思いますが、日中の遅い時間に寝てしまうと、夜眠れなくなったりしますので、できるだけ早めの時間帯、午後3時くらいまでにするとよいでしょう。

コーヒーなどのカフェインに覚醒効果があることをご存知の方も多いと思います。就寝前のコーヒーは深い眠りを妨げ、睡眠の質を下げてしまいます。カフェインの効果は5時間程度続きますから、こちらもせめて午後3時くらいまでに。逆にカフェインの覚醒効果が現れるのは摂取後20〜30分後なので、昼寝の前にカフェインをとると、20〜30分後に自然に目が覚めやすくなります。上手に利用するとよいでしょう。
睡眠をデータ化してくれるスマホアプリもあります。枕元に置いて眠ることで、睡眠中の動きや音を感知して睡眠の深さ、リズムを解説してくれるものです。最近ではセンサーの質もよくなってより正確な計測ができるようになっていますし、AIがそのデータからよりよい睡眠を得るためのアドバイスをしてくれるものもあるようです。一度こうしたアプリで自分の睡眠を「見える化」して、日中の過ごし方や、睡眠時の環境、食事、入浴など生活習慣を見直してみるのもいいかもしれません。
忙しい毎日の中で、睡眠の重要性は理解していても、充分な睡眠時間をとることや食事、入浴のタイミングを合わせるのは至難の業という方もいらっしゃると思います。原因を探ったうえで環境改善が難しく、慢性的な睡眠不足による大きな病気や事故の可能性がある場合は、病院で相談してみるのもよいかもしれません。
体内時計のリズムを整える「メラトニン」や、睡眠と覚醒のリズムを変える「オレキシン」に関わる睡眠のお薬も近年登場してきました。これらは従来の睡眠導入剤と比較して安全性が高いものもありますので、医師に相談してみてください。「睡眠外来」がある医療機関があればよいのですが、なければまずは「内科」「心療内科」などを受診することをおすすめします。

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2014年東京大学医学部医学科卒業。2021年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了・卒業。糖尿病や肥満症の研究を専門に、最近では老化や睡眠、味覚についても探究を深める日々。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock