
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2026年春号では、芦屋「メツゲライクスダ」楠田裕彦さんに、地元神戸と職場がある芦屋周辺の愛すべき店を案内してもらいました。
神戸・海岸通にあるギャラリー「Vague Kobe(ヴァーグコウベ)」。
世界を舞台に活動するデザイナー・柳原照弘さんが主宰する「Teruhiro Yanagihara Studio」の日本拠点であり、国内外のクリエイターやアーティストが集う場所として知られている。
その上階にある「Eatery & Wine by Vague Kitchen」は、ギャラリーに併設されたレストランという枠を超え、空間、デザイン、料理が一つの体験としてつながる特別な場所だ。



「柳原さんは、地域に根ざすということを、自身の視点で徹底して形にしている。その思想が、デザインだけでなく料理にもきれいにつながっているところに惹かれます」。そう話すのは、「メツゲライクスダ」の楠田裕彦さん。
厨房を預かるのは、フランス料理と和食の経験を持つオーストラリア出身のシェフ・サムさん。港町・神戸という土地の歴史や風土、多様な文化が交差する背景を読み解きながら、土地の食材を用いて一皿を組み立てていく。
その世界観を象徴するのが、「山のヌードルヴァーグ スパイス鹿肉ラグ」。
日本のうどんと南イタリアのパスタを思わせる、自家製ならではの力強い麺。そこへ、鹿肉のラグーの深い味わいと香り高いスパイス、自家製ラー油が重なり、和洋の枠を軽やかに越えていく。

「単に料理がおいしいだけではないんです。空間があり、デザインがあり。その土地を見つめる思想があり、最後に料理へとつながっている。その一貫した世界観が本当に素晴らしい」。楠田さんがそう語る理由は、一皿の味だけでは説明できない。
料理を味わいながら、建築や家具、器、光の入り方までが自然と視界に入り、そのすべてが心地よく調和している。
「ギャラリーレストランとして見ても、関西ではとても稀有な存在だと思います」。
食事をするというより、一つの作品世界に身を置くような時間。
そんな体験ができる場所だからこそ、楠田さんは何度も足を運びたくなるのだろう。





神戸市生まれ。ドイツ・フランスで修業後、鹿児島「クスダハム工房」を経て2004年、芦屋で独立。創業20年目となる24年、東京「麻布台ヒルズ」に新ブランドを出店。

文:船井香緒里 写真:福森クニヒロ