
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の平松玄太郎さんが、食いしん坊ゆえに気をつけたい健康について指南してくれるこの連載。前回に引き続きテーマは「薬物中毒」。市販薬、違法薬物の中毒について、教えていただきます。

市販薬は処方薬よりも安全な領域が広く設定されているので、中毒が起こるとすれば多くが過量服用です。この数年で数が増えているのが眠気覚ましとして市販されているカフェインの錠剤や咳止め薬によるものです。
カフェイン中毒の代表的な症状は吐き気・動悸・焦燥感などで、病院に搬送されたときにはオエオエしていることが多いです。重症だと不整脈や痙攣を起こすため、透析を回すこともあります。また、カフェインは薬だけではありません。世の中ではカフェイン含有砂糖水をエナジードリンクと呼んで高い値段で売っています。「赤い牛」や「怪物」が有名でしょうか。何本飲むと致死的なのかとよく聞かれますが、患者さんの背景によっても変わり、上記の片方は国によってカフェイン濃度が異なります。海外の話ですが、10代や20代の方でもエナジードリンクを数本飲んだだけで不整脈を経て死亡に至っている症例の報告も存在します。そして、カフェインについて日本人が注意すべき点としては、実は玉露茶の方がエナジードリンクよりも高濃度だったりすること。がぶ飲みは避けましょう。
咳止め薬には多幸感をもたらすとされる麻薬成分が含まれています。しかし市販薬は複数の成分を寄せ集めた商品なので、過量服用でどの成分の中毒症状が前面に出てしまうかにより、やはり吐き気・動悸・焦燥感などが出てしまったり、手が震えてしまったりして、本来の目論見とは逆に肉体的にも精神的にもしんどい思いをしているケースが多いです。
最後に違法薬物についてです。種類はたくさんありますが、ここでは大麻・コカイン・覚醒剤・ヘロインの4つについて、悪影響を及ぼさない範囲でご説明したいと思います。
「大麻」はカナダやウルグアイでは嗜好用でも合法であったり、オランダのコーヒーショップが有名だったりすることから敷居が低いのか、薬物世界へのゲートウェイドラッグとも呼ばれます。また特定の音楽ジャンルと強い結びつきがあるため、“カッコいいもの”と勘違いするのか、若者を中心に摘発者が年々増加しています。大麻に含まれるTHCという成分が精神作用を持っていますが、それに似せて合成されたTH○やTH○○、あるいはHH○やHH○○などは次々と違法指定薬物として認定されています。リラックス効果を謳っているCBDの類似成分も同様に認定されつつあるので、たとえクッキーやグミもしくはオイルや電子タバコのリキッドであっても、よくわからないものには手を出すべきではありません。
「コカイン」はアメリカ映画でよく見るテーブルの上にある粉を鼻から吸っているアレです。日本人は鼻粘膜が弱く吸うと痛みが強いので、日本では流行りにくいとされています。確かにコカインで捕まった方は大麻や覚醒剤に比べてかなり少ないです。赤のイメージが強いあの炭酸飲料は開発当初、コカインの原料であるコカの葉が使用されており、薬用ドリンクとして飲まれていました。今はもちろん含まれていませんが、商品名にその名残があるのは誰の目にも明らかです。
「覚醒剤」は“人間をやめる覚悟で手を出すもの”として認知されるようになったので危険度は周知の通りですが、日本ではかつて「ヒロポン」という名前でどこの薬局でも売っていたのはもはやあまり知られなくなりました。疲労がポンと飛ぶというのが語源だそうですが、今日の薬局でカフェインが手に入るのとはヤバさのレベルが違います。よく聞くMDMAはこの覚醒剤の親戚にあたる物質です。
最後に「ヘロイン」です。最後に持ってきたのは、作用・依存度・離脱症状がどれもものすごく強く、薬物中毒者が最後に行きつくキングオブドラッグと呼ばれているからです。
少し古いデータですが、2007年にイギリスのランセットが発表した薬物の危険度ランキングでは堂々の1位となっています。日本の有名人の逮捕歴を調べてもほとんど出てきません。救急の現場でも大麻・コカイン・覚醒剤の中毒患者は診たことがありますが、ヘロイン中毒患者はまだ経験がありません。
ちなみにランセットは2010年にも同様のデータを公表しており、使用者個人の影響だけでなく“他者への危害”も加味すると、アルコールがあらゆる薬物よりも害悪であるとしている点も最後につけ加えておきます。
一般にコカイン、MDMA、ヘロインなどは「麻薬」という言葉で総称されます。同じ麻薬でもフェンタニルが昨今よくTVで紹介され、使用した人がゾンビのようになった姿を見たことがあるかと思いますが、これに関しては医療の世界で頻用されている鎮痛薬のひとつで、ちゃんとコントロールすればとてもいい薬なので安心してください。
次回が最後の連載になりますが、「日常に潜む中毒」で幕を閉じたいと思います。
埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock