湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【気品ある淡い甘さが後を引く】生地を振ってのばすのが楽しい、もちふわな中華蒸しパン「銀絲巻(インスジュアン)」をつくろう

【気品ある淡い甘さが後を引く】生地を振ってのばすのが楽しい、もちふわな中華蒸しパン「銀絲巻(インスジュアン)」をつくろう

銀の糸を巻き上げたような愛らしい姿と、ほんのりとした上品な甘さ。13回目は宮廷料理の気品溢れる、もちふわな中華蒸しパン「銀絲巻(インスジュアン)」です。湯島聖堂の宴会には欠かせなかった一品には、粉ものの職人技が凝縮されています。

グルテンの力を生かしてなめらかに美しく仕上げる

銀の糸のように細く繊細な生地を螺旋状に巻き上げた、小ぶりの中華蒸しパン「銀絲巻」。花形に巻いた「花巻(ホワジュアン)」と同じ生地でつくる、饅頭(マントウ)の一種だ。なお、本場の北京では「銀絲巻児(インスジュアンル)」と表記されることもある。「児」は小さいもの、可愛らしいものにつける接尾語だ。

前回の「烙餅(ラオビン)」が庶民の食べものに対し、「銀絲巻は清朝の宮廷料理がルーツ」だと山本豊さん(湯島聖堂「中国料理研究会」出身の料理人)。もっちりとした生地は品のある淡い甘さで、見た目も洗練されている。

「こうした餡がはいっていない饅頭は、ごはん代わりに宴席の最後に出します。手が込んでいて、見栄えがよい銀絲巻は、湯島聖堂のパーティーでももてなしの一品としてよくつくりました」

ちなみにネットで検索すると、麺状の細い生地を束ね、さらに生地で包んでコッペパン型のものが現れる。だが、これは大量生産するために簡略化された形だという。「この螺旋状の形こそが、北京の伝統的なもの。手の込んだ技を見せる料理です」と山本さん。

2026年春号の連載に登場した中華クレープ「春餅(チュンビン)」、先述の「烙餅(ラオビン)」からのおさらいになるが、中華の粉ものは、小麦粉を練るときの水の温度がポイントだ。もっちりふかふかに仕上げたい銀絲巻は、常温の水で小麦粉をこねて、弾力と粘りを生み出すグルテンの生成を促進させる。

糸状の生地を細くのばす工程が、難しそうに感じるかもしれない。だが、グルテンが十分に生成されていれば、軽く上下させるだけでみるみるうちにのびていく。実際にやってみると、粘土遊びの感覚で楽しめる作業だ。

気温が低く、雨が少ない中国の北方は、稲作には適さない。そのため、古くから粉ものが主食として親しまれてきた。グルテンの生成を巧みに操り、焼いたり蒸したりと熱の入れ方を変え、無数の味と食感を生み出す。中華の粉ものの世界は、北方の草原のように広大なのだ。

26年春号「ニューたまごパラダイス」
26年春号「ニューたまごパラダイス」
たまごライフがスペシャルに変わる、クリエイティブ&エンターテイメントな79レシピを取り揃えました。読むだけで料理の腕が上がりますよ!

dancyu2026年春号
A4変型判(160頁)
2026年3月6日発売/1,500円(税込)

銀絲巻のつくり方

材料材料 (12個分)

薄力粉210g(ふるっておく)
強力粉90g(ふるっておく)
ベーキングパウダー小さじ1と1/2
砂糖大さじ3
レーズン12粒(水をふりかけて戻しておく)
・ ラード大さじ3(市販のチューブ入りでよい)
・ 砂糖小さじ2

【生地をこねる】

1

薄力粉と強力粉、ベーキングパウダー、砂糖をボウルに入れ、水170mlを加え、菜箸でボウルの底に粉が見えなくなるまで混ぜる。

菜箸でボウルの底に粉が見えなくなるまで混ぜる

2

手で生地がまとまるまで練る。丸めて、閉じ目を下にし、濡れ布巾をかけて10分ほどねかせる。

手で生地がまとまるまで練る

3

麺台に打ち粉をし、生地を折り込みながら、体重をかけてよくこねる。表面がなめらかになったら、閉じ目を下にして置く。

よくこねる
親指のつけ根で押し込むようにして、生地をよくこねる。生地のなめらかさが、仕上がりの美しさを左右する。
【生地ののばし方】
①麺棒を生地の中央に置き、奥へのばす。次に中央から手前にのばす(手順A)。





②生地を裏返し、十の字の方向に均一にのばすために90度回転させ、手順Aをやる。




【生地を成形する】

4

閉じ目を下にして置き、生地ののばし方を参照して、縦25cm×横35cmの大きさまでのばす。生地がのびてきたら破れやすくなるので、生地を動かさずに、麺棒を縦に持ち替え、中央から左へ、中央から右へのす。

【生地を成形する】
生地の中央に麺棒を置き、奥へのばすところからスタート。
【生地を成形する】
手順Aを一回行うごとに、生地を90度回転させて同じ手順を繰り返す。
【生地をのばす】
生地が大きくなってきたら生地は動かさずに麺棒の向きを変えて、十の字の方向に均等にのばしていく。

5

材料★を小さなボウルに入れ、刷毛で混ぜ合わせる。生地の上からおよそ3分の2の範囲に、刷毛で★を塗る。

【生地をのばす】
ラードは常温に戻しておくと、砂糖と混ざりやすい。
【生地をのばす】
生地の3分の2に★を塗るのは、後で半分に折りたたむ際、上下の生地が伸びてくっつくかないようにするため。

6

生地の下端を麺棒で持ち上げ、半分に折る。生地を麺棒で軽くのして、密着させる。

【生地をのばす】
生地を破かないように、麺棒でそっと持ち上げて折り返す。
【生地を成形する】
上下の生地を密着させるために、麺棒で軽くのす。

7

生地の端から、包丁で5mm幅に切る。長さが揃っていない両端の2~3本は、使わずに束ねて結び、花巻にする。

【生地を成形する】
均等な幅に切ることで、仕上がりが美しくなる。
【生地を成形する】
長さが揃っていない端の数本は束ねて結び、後で一緒に蒸せば花巻になる。

8

麺台に、多めに打ち粉をする。5本をひとまとめにし、両端を手で持って、軽く台に叩きつけるように上下にふり、生地を3倍ぐらいの長さにまでのばす。

生地を3倍ぐらいの長さにまでのばす
手首のスナップをきかせて上下にふる。強くふりすぎると、ちぎれるので注意。
生地を3倍ぐらいの長さにまでのばす

9

右端から3分の2の長さ、左端から3分の1の長さをそれぞれ渦巻き状にくるくると巻く。左の小さな渦巻きをカードで持ち上げ、大きな渦巻きの上に重ねる。上下がくっつくように、軽く中心を指で押し、レーズンをのせる。

渦巻き状にくるくると巻く
渦巻き状にくるくると巻く
渦巻き状にくるくると巻く
渦巻き状にくるくると巻く
【生地をのばす】

10

蒸籠に穴の開いたペーパーシートを敷き、9を並べる。艶出しのために霧吹きをして、強火で10分蒸す。

蒸す
生地が破れないように、両手で持ってフライパンの上にそっと置く。
完成
もちっとした食感のあとに、甘みとラードのコクがほのかに広がり、淡白な小麦の味わいに奥行きをもたらす。指でつまんで食べられる大きさもうれしい。

教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹廬山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。