日本全国出張ひとり飲み
【大阪・難波の路地裏でひとり飲み】酒と料理の旨さ&浪速流のもてなしに和む、日本酒蔵直営の立ち飲み

【大阪・難波の路地裏でひとり飲み】酒と料理の旨さ&浪速流のもてなしに和む、日本酒蔵直営の立ち飲み

大阪屈指の繁華街・難波の路地裏に立つ「酒蔵 櫛羅」は、奈良県の酒蔵・千代酒造の直営店。スタンディングスタイルながら酒もつまみも絶妙に旨い上、お財布感涙の人情価格、関西的フレンドリーな空気との相乗効果で、ひとりでもご機嫌でほろ酔いを楽しめる。

地元民が通う裏なんばにて、幕開けから心奪われる

「キタ」の梅田と並び、御堂筋を下った「ミナミ」こと難波周辺は、大阪自慢の歓楽街。道頓堀川やグリコの看板を眺めながら街を歩けば、「来たぜ、大阪!」と、たとえひとりでも心が自然と躍りだす。飲み処も高い密度で並ぶが、なかでも通称「裏なんば」と呼ばれる南エリアは、お手軽プライスで美味美酒を満喫できる人気店がひしめきあう。にぎやかな景色に欲望が刺激されつつ旨し酒をと目指したのは、裏通りに位置する「酒蔵 櫛羅(くじら)」だ。営むのは銘酒「篠峯」で全国的に知られる、奈良県御所(ごせ)市にある千代酒造。櫛羅は蔵が立つ豊かな水に恵まれた地域の名であり、その地の自社田で栽培する山田錦のみを原料とする酒の名でもある。

カウンター、テーブルともに立ち飲みスタイルなので、ひとりでふらり訪れる客も多い一軒。さて、なにを頼もうかとメニューを手に取った瞬間、恋に落ちたかのようなときめきを覚えるはずだ。主人の高田庄司さんが記す筆文字は、美しく温かみがあり、惚れ惚れ目が釘づけ。とりわけ料理メニューはパズルのごとく巧みに構成され、アートを思わせる。みっちり詰まったその内容は界隈のネオン同様に心を浮き立たせるので、まずは一杯飲みながら落ち着きを取り戻したい。「篠峯」「櫛羅」ともに酒類は多彩で、メニューにはない酒もあるため、好みを伝えて相談するのが吉。初めてでも気張らずに済む、スタッフのやわらかな対応は飲む前から心にじんわりしみる。

メニュー
眺めているだけで幸せな気持ちになれる、芸術的なメニュー。
日本酒
自社田で育つ山田錦で醸す「櫛羅」は生産量が限られるため、この店での出会いを満喫したい。いずれの酒も飲み比べにうってつけな写真の小グラス90mlと、大グラス150mlが選べる。
日本酒
「篠峯」もまた、季節の酒を含めたレアものも顔を揃えており、迷いは尽きず。
日本酒と酒肴
訪れた日に頼んだお通しは、白和えと「スパイスカレーるー」。日々食材を足していくカレーは、常に昇華進行中の一期一会的な味わい。
スタッフ
テーブルもあるが、カウンターに陣取れば相談はより気軽に。

酒もつまみもさりげなく魅せるからたまらない

千代酒造が目指すのは、日々の晩酌にゆるり寄り添う「美味しすぎないお酒」。「櫛羅」「篠峯」ともにやわらかな飲み心地で、きれいな輪郭のなかにほんのり甘味を秘めたさらりとした旨さが特徴だ。すうっとやさしく喉を過ぎ、後味も軽快。小グラスという名の、たっぷり入った一杯がワンコインからという価格もうれしく全速前進。

料理もまた、複数の小鉢から選べるお通しから品の良いおいしさに魅了され、先への期待がふくらむ。実際、真鯛のあら煮やアジのなめろうは、食材を引き立てる引き算の加減が見事で、旨いよおおおお! しかも、すべてがワンコイン前後なり。「立ち飲みでそんなに高いの、イヤですやん。2000〜3000円程度でおさまるのがいい」とは、高田さん。すこぶるうれしいものの、筆者の東京感覚では価格からのボリューム予想がはずれたので、ひとりで多様に楽しみたい場合はご注意あれ。一方で、地元の食いしん坊や呑兵衛は驚かないとも聞き、うらやましくもなる。パラダイスですよ、大阪は。

心意気が詰まった料理のおいしさは、酒と合わせることでより際立つのが愉快。「篠峯」「櫛羅」ともにすっきりとしたボディのなかに、カレーのスパイスや山菜の苦味、ごぼうの滋味など、主張が強めのテイストを受け止める懐の深さがあり、食中酒としてすばらしい働きぶりなのだ。

訪れた春はツクシやタケノコなどに誘惑されたが、暑さ真っ盛りの今の季節は夏野菜のラタトゥイユやとうがん、ゴーヤなどが登場。千代酒造の酒はフルーツとの相性も良いことから、夏はスイカやイチジク、秋はカキやナシなど、フルーツも必ずメニューにあるというから、デザートまで完璧コースだ。

料理
食べ応え十分の真鯛のあら煮もワンコイン! ボリュームは後ろのグラスのサイズからご想像あれ。メニューのほとんどは日替わり。すなわち、再訪すればあらたな喜びにふれられる。
酒肴
太っ腹の厚めに切られた濃密味のカラスミは、噛みしめて極楽。
酒肴
「平アジのなめろう」は、味噌がきっちり見事な引き立て役を担っていた。
おでん
定番から季節の品まで、みっちり美味が詰まったおでん鍋。迷う場合は、盛り合わせを!
おでん
だし汁の旨味と手を取り合い、深い世界を生んでいた変わり種おでんのトマト。
おでん
だし汁しみしみのコロッケのおでんは、崩しながらちびちび飲み。
燗つけ器
ちろりのなかで酒が温もっていく、おでん鍋付属の燗つけ器。
日本橋
「千代 山廃純米」は王道ラベルも魅力。左端、主人の高田庄司さんは木、金、土曜にカウンターに立つ。

温もりあるおいしい二役をこなすおでん鍋

カウンター内では通年、おでん鍋がふわりと湯気を立てている。猛暑が続く季節であってもクーラーで心身が涼んだら、ぜひ注文していただきたい。すっきり軽やかなだし汁は、夏に疲れた五臓六腑にじんじんしみていくのだ。大根をはじめとする定番もいいが、たとえば旨味ふくらむトマトやジャガイモがまろやかなコクを生むコロッケなど、変わり種も愉快。むううう、旨くて酒が進みすぎる。

というわけで注文のたびスタッフに相談を重ねるうちにすすめられた、「千代 山廃純米」も忘れがたい記憶。蔵の名を冠したこの酒は、晩酌で長年親しまれてきた御所の日常の一杯。多くが地元で消費されるため県外ではほとんど巡り会う機会がないのだが、ああ、程よくふくよかでキレ良し幸多し。

「燗も旨いですよ」との、さらなるご指南も至福を導いた。おでん鍋は、その端っこで燗をつけられるスグレモノ。コトコト炊かれるおでんの横でゆっくりと温もった「千代」は、ふっくらやわらかな甘味とキレが程よく増すバランスの良さがあり、店内に流れる昭和のフォークソングにしみじみなりながら、ゆるゆるゆるゆるゆる……。

立ち飲みゆえふらり立ち寄れるので、食前、もしくは2軒目、3軒目にも頼れるが、束の間では心残りがありすぎて次の出張まで悶々となるのは確実。できればゆっくり、全身全霊でこの店の魅力にひたっていただきたい。帰る頃には酒も食も人もすべてが愛おしくなり、離れがたい思いにかられるだろう。

外観

店舗情報店舗情報

酒蔵 櫛羅
  • 【住所】大阪府大阪市中央区千日前2‐3‐24
  • 【電話番号】非公開
  • 【営業時間】16:00~22:00
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】近鉄「日本橋駅」より徒歩約4分、南海「なんば駅」より徒歩約5分、地下鉄「なんば駅」より徒歩約6分

公式サイト
https://chiyoshuzo.co.jp

文:山内史子 写真:松隈直樹

山内 史子

山内 史子

青森県出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国以上を巡り、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)、「青森ほろ酔い旅」(ものの芽舎)など。