刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
【煮ても焼いても刺身でも旨い!!】深海の赤い至宝「ユメカサゴ」を干物で凝縮する

【煮ても焼いても刺身でも旨い!!】深海の赤い至宝「ユメカサゴ」を干物で凝縮する

伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり。第35回は、筆者が「煮ても焼いても刺身でも旨い魚の筆頭」と愛してやまないユメカサゴが登場します。 深海から揚がるその朱色の魚体は、見た目の美しさもさることながら、強い旨味と上品な脂、そして独特の酸味のバランスが魅力。師匠の内田さんは「から揚げが最高」と太鼓判を押すこの魚を、贅沢に干物へと仕立てます。 カサゴ特有の大きくて硬くて美味しい頭を活かす「小田原開き」にし、ギュッと凝縮された「旨味の塊」を頬張れば、キレイな日本酒が恋しくなること間違いなしです。

蒲郡で愛される「ワガ」。上品な脂と強い旨味を併せ持ち、とにかく味がいい

好きな寿司ネタは?と聞かれたらイカ!と即答する。でも、煮ても焼いても刺身でもマルチに美味しい魚の筆頭はユメカサゴだと思っている。
僕が住んでいる愛知県蒲郡市には伊豆沖などの深海(200m以深の海)で底引き網漁を行う漁船の母港があり、帰港した日の早朝には競り場がメヒカリや金目鯛などの深海魚であふれる。その中で、一般的にはあまり知られていないけれど、我々蒲郡市民には人気なのが「ワガ(ユメカサゴの地方名)」なのだ。

この魚、とにかく味がいい。大きなものは体重2kgにもなるらしいけれど、20㎝ほどの小さな個体でも脂がほどよくのっていて、軽く塩を振って焼くだけで甘味と旨味とかすかな酸味と塩味を同時に味わえる。バランスが良くて上品で、とにかく旨い。香ばしい皮と一緒に食べるともう最高。日本人好みの朱色で、食卓も雅に彩れる。まことにありがたい魚なのだ。

魚

褒め過ぎて人気になってワガが手に入りづらくなったら困るなと思っていたら、我らが干物師匠の内田さんも好みの魚らしい。
「伊東ではよく水揚げされるので、単にカサゴと呼んでいます。身質がしっとりして、脂ものっていますよね。個人的には唐揚げがクセになる味だと思っています」
二度揚げして頭ごとバリバリ食べるのだろうか。未体験なのでぜひやってみたいけれど、ここは干物専門店。この魚の強い旨味をさらに凝縮する干物づくりを教えてもらおう。

頭の肉まで余さず味わうために。「小田原開き」で美しく仕上げる

「カサゴは皮が厚めで身は柔らかいので開きにくい魚の一つです。尾の先までしっかり包丁を入れないときれいに開きません」
スタッフの鈴木さんがいつになく厳しめに注意してくれる。たぶん、鈴木さんもユメカサゴが大好きなのだろう。無駄なく美味しく食べてほしいという気持ちが垣間見える。
カサゴ仲間は頭が大きくて硬い。そして、頬の肉などはきめ細かくて美味しい。頭を切り落としてしまうのはもったいないし割るのは大変なので、頭を残して背開きにする「小田原開き」が合理的だ。鈴木さんに教えてもらおう。

1首の後ろから尾まで切り目を入れる

魚を縦に置き、エラブタを手で開き、その上部から包丁を入れ、中骨の上に刃先が当たるようにして首(頭のつけ根から)尾まで引いていく。

首の後ろから尾まで切り目を入れる
首の後ろから尾まで切り目を入れる

2さらに深く包丁を入れる

手で広げながら背骨の向こう側まで包丁を入れる。このときも、中骨の上に刃先が当たることを意識する。尾の先までしっかり包丁を入れること。

さらに深く包丁を入れる

3手と包丁で身を押し開く

尾の先までちゃんと包丁が入っていないとキレイに開かない。そのときはもう一度包丁を入れ直す。

手と包丁で身を押し開く

4えらごと内臓をかき出す

包丁を置き、えらぶたに手を入れて、えらの根元を手でちぎって前に引くと内臓ごと除去できる。魚は横に置いたほうが作業しやすい。

えらごと内臓をかき出す

5水で洗う

使い古しの歯ブラシを使って、真水を入れたボウルで血と内臓を取り除く。

水で洗う

「浸水18分」と「なでる一手間」。干物ならではの凝縮感がユメカサゴを進化させる

上品な白身なのに意外なほど脂が多めなユメカサゴ。それだけ塩が入りにくい。島源商店流の塩分濃度8%の塩水に浸す時間は長め。鈴木さんはクロムツと同じ18分間と判断した。

浸し終わったら真水で表面の塩水を洗い流し、網にのせて干す。このときに魚の身を頭から尾の方向に手で軽くなでつけると、干し上がったときに照りが出て、見た目がさらに美味しそうになる。これも島源商店伝統のひと手間だ。

干物
干物

表面のベトベトがなくなり、押して指紋がつく程度まで乾いたら干し上がり。あとは表裏をしっかり焼くだけだ。

干物

もともとプリッとした白身のユメカサゴ。塩と天日干し、そして火によって水分が適度に抜けて凝縮し、香ばしさと塩味が加わる。見るからに「旨い」が詰まっている。
「ユメカサゴは肝も旨いよね。100mよりも深いところでしかなかなか釣れないけれど、その価値がある魚です」
撮影の合間を見つけては釣りに出かけているカメラマンの牧田さんがユメカサゴを焼きながら語る。仲間と一緒に所有する船でクエなどを釣っては都内の高級店に送って喜ばれているので、釣師というよりも漁師に近い人だ。
「ユメカサゴは丸ごと冷凍しておいてもこうやって美味しく食べられる。たくさん釣れたときは助かります」
刺身などで食べる高級魚は、釣ってからいけすで休ませてナイフで締め(活締め)、血抜きをして冷やして保存する。でも、すべての魚を活締めするのは大変なので、小さな魚などは氷水に入れて締めて(野締め)、そのまま冷凍。調理するときに解凍して鱗や内臓を出す。やや荒っぽいけれど効率はいい保存法と言える。
そういえば、島源商店で仕入れている魚の大半も野締めで冷凍している。解凍するときにやや身が崩れてしまうけれど、それだけ塩がよく入る。干物には向いているのだ。

干物
しっかり塩を入れて、表面が少し焦げるぐらいによく焼く。水分を飛ばした凝縮感を味わうのが干物の醍醐味です。

牧田さんの釣り&干物論を聞いていたらユメカサゴが焼き上がった。熱々のやつをパクり。旨い!ユメカサゴの塩焼きは食べ慣れていたつもりだけど、これはまた別の旨さだ。新鮮なユメカサゴを焼くとフワッとした食感と上品な甘味を楽しめる。一方で干物はもっとギュッとまとまっていて、ユメカサゴ独特の味わいが際立つように感じた。
「絶妙な味ですね。吟醸酒など、きれいな日本酒が合うかも」
牧田さんも感嘆の声を上げながらどんどん食べている。ユメカサゴは干物でも素晴らしいことが判明し、ますます好きになった。
冷凍しておけるのでたくさんあっても困らない。随時解凍して開いて干物をつくれば嬉しいおかずができあがる。寒い時期から春までがユメカサゴの旬。安く売っていたらまとめ買い必須だと思った。

干物
【大宮冬洋の干物日記】
【大宮冬洋の干物日記】鴨川の夫婦船から届いた「はえ縄の金目鯛」。干物にして食べてみた
○月△日

自分で考案した「魚さばき手袋」を出展したFOODEX JAPAN 2026。いろんな食のプロたち100名ほどと名刺交換をして、この手袋を使ってくれた飲食店に食事に行ったりしている。新商品なので拡販を目標にするべきなのだけど、魚好きとの交流がとにかく楽しい僕は手段が目的化してしまうのだ。
特に嬉しかったのが、千葉県鴨川市で漁師をやっているという若い夫妻との出会い。漁船「豊勝丸」を旦那さんが操縦し、釣り針で魚を獲るはえ縄漁をしているらしい。奥さんも一緒に船に乗って作業している。夫婦船なんて可愛いなと思って、魚さばき手袋を進呈。魚を活締めするときに使ってほしい。
後日、豊勝丸から50㎝はある大きな金目鯛が3匹も届いた。魚さばき手袋のお礼らしい。はえ縄漁で揚がる魚は美しいな。魚を網で引きずったりまとめて獲って圧迫したりがないからだ。あまりに立派なので近所に住む魚師匠(和食店の主人)にも分けたほどだ。
今度はちゃんと代金を払うので、小さなやつをまとめて送って下さいと豊勝丸にお願いした。すると、平均30㎝もある金目鯛が12匹も送られてきた。全然小さくない……。はえ縄は釣り針やエサの大きさで狙う魚を絞れるので、小さな魚は獲りにくいのかもしれない。
アラフィフ夫婦ではとても食べ切れない量だが、僕には鮮魚部があるので心配ない。9匹は鮮魚部メンバーに買ってもらったり妻の実家に渡したりして消費した。残り3匹のうち2匹は、刺身やマース煮、煮つけ、西京焼きで楽しみ、一番小さな個体(といっても25cmほど)を開いて塩を振り、ベランダで干した。
私見だけど、金目鯛はユメカサゴなどと比べると淡白な味だと思う。脂がのっていても旨味は強くない。だから、煮つけや西京焼きなど醤油や砂糖で旨味を足す料理法が多く選ばれるのだ。干物に関しても同じで、塩味だけではちょっと物足りなかったので、醤油を少しかけたら急激に美味しくなった。
豊勝丸の夫婦にも報告し、小型の金目鯛以外にも引き取り手がなさそうな低利用魚が獲れてしまったら今後も買わせてもらうことにした。三河湾沿いに住む僕だけど、外房の海に思いを馳せられそうだ。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。